日本郵船株式会社で新造船の建造におけるプロジェクトマネジメントを担当している柿沼徹也さん。
どんな船を作りたいのか技術面だけではなくビジネスとして成り立つ船にするためにコスト面からの検討も必要なので様々な知識が必要です。
通常の技術職のイメージとは少し違う柿沼さんの仕事内容についてお伺いしました。
(取材協力:日本郵船株式会社)
海運業界の場合「陸上職」と「海上職」という区分けがあります。「陸上職技術系」は陸から船に技術面で関わる仕事です。総合職として造船計画・図面承認・工務監督・船舶保守管理・新技術開発などに携わる新造船のプロジェクトマネージャーです。
※3~4年ごとのジョブローテーションにてさまざまな業務を経験します。
- 通常の技術職と異なり、技術の専門知識をプロジェクトマネジメントに活用
- 巨大な船の生涯に技術面から関わり続ける他ではできない仕事
- 自分で手を動かして造るというよりは、知識を使って深く関わっていく仕事
「陸上技術」の業務内容について教えてください。
私が担当している海運会社の工務業務は、長期にわたり、稼ぎ続けられる良い船を調達するのが主な役割です。そのためには船の運航者(オペレーター)・船主(船舶管理含む)双方の経験(使い勝手、トラブル、クレームなど)から蓄積された知見を反映する必要があります。
私の業務は現在の市場にあった船の要求仕様を作成し、造船所に提示します。造船所で船の価格や納期、そして仕様書を作ってもらい評価を行います。複数の造船所に依頼しますので、その中で最も競争力のある提案をしたところと交渉し、船の建造における契約を行います。
契約後は、その船の建造に対するプロジェクトマネジメントを行う立場になります。まず造船所から提出された図面を精査して船主としての要望事項を図面に反映します。
工程や予算の管理を行い、竣工後も技術的案件があれば対応を行っています。一言で言うと、自分たちがほしい船を明らかにする仕事です。
また、我々が支払うコストが見合っているかを、精査するのも大切な仕事です。理想だけではなく現実面でも突き詰めていきます。造船所との価格交渉も技術職が、行っているというのは通常の技術職とはちょっとイメージが異なるかもしれませんね。
仕事上で常に心がけていることはありますか?
技術的にいかに優れていても、ビジネスが成り立たない船であれば技術者の独りよがりになってしまいます。
仕事をしていく上では投入したコストに見合った効果があることを常に確認しながら、船づくりを進めることを心がけています。
どんどん新しい技術は開発されてきますので、これらを船に適用する判断のために必要な情報収集や定量的評価方法の模索は常に行うよう心がけています。
仕事をしていて嬉しかったことはどんなことでしょうか?
月並みな答えかもしれませんが、自分の担当した船が無事に完成し出航していくのを見ると嬉しくなりますね。その日の夜は打ち上げをしてお祝いします(笑)。
「自分が手掛けた船」が具体的な形になり、今後20年以上活躍する…というのは嬉しいことです。しかもそれを自分で保守・修繕・改造までするかもしれない。巨大な船の生涯に技術面からかかわり続けるのは他ではできない仕事です。
また、要所要所で達成感とともにやりがいを感じるポイントがあります。たとえば、船全体を記述した仕様書が完成した時、船が初めて水に浮かんだとき、船が完成して受け取ったとき、修繕ドックでの工事が完了した時などは、嬉しいですね。
逆に辛いと感じることはありますか?
この仕事は非常に幅広い知識を要求されます。
船には構造、塗装、機関プラント、電気、といったさまざまな要素があり、それぞれの専門家が造船所やメーカーにいます。それを取りまとめるプロジェクトマネージャーでもある我々は、それぞれの専門家と対等に交渉を行っていく必要があります。
一朝一夕で身につく知識でもありませんが、とにかく広く勉強し、時には度胸で交渉を進めなければならず、時にはトラブルが起きた瞬間に、十分な技術的背景をもって交渉に挑めない場合があります。業界に広く人脈を持ち、すぐに相談できる人を社内外に持つことが、解決方法の一つです。
仕事で英語を使うことはありますか?
あります。入社してから会社が提供する英会話の講座を受けています。先日も英語のプレゼンテーション講座を受けました。会社がこういったサポートをしてくれるのは、ありがたいです。
会議などで一人でも日本語を話さない人がいれば全員英語で話します。外国の人と一緒になる機会は職業柄、多いのではないかと思います。だんだんと慣れてくると言うか、やらざるを得なくなります。なんとか頑張っています。
何歳頃から現在の職種に就きたいと感じましたか?きっかけや理由はどのようなものですか?
23歳頃です。もともと、大学入学から大学院まで、自動車の電子制御、交通システムのデザイン、設計知識伝承など、さまざまな研究に関わっており、設計知識伝承の研究の題材として扱った造船が面白く、巨大な船の設計・仕様を自分でコントロールして決めていくことができる、この仕事に興味を持ちました。
就職活動も自動車メーカーなど「つくる」ということを考えて回っていたのですが、技術を活かせる仕事としてこういうものもあるよ、と教えてもらったのが今の仕事です。自分で手を動かしてつくるというよりは、知識を使って深く関わっていく。こんな仕事があるんだ!と思いました。
また出身地から近い東京を拠点に、ものづくりに深く携わることができるのも魅力を感じたポイントの一つです。
お休みの状況はどうでしょうか?
土日、祝日、メーデー、創業記念日、正月休みのほか、好きなタイミングで取れる夏冬休暇や有給休暇があり、まとまった休みが取れるので、旅行などもしやすい環境です。
最近は子供と遊ぶので忙しいですが、それ以前は会社の部活でヨットでのレースやクルージングを楽しんだり、趣味の車やバイクでツーリングやサーキット走行を楽しんだり、国内外の旅行に行ったり、仲間とサバイバルゲームで汗を流したりしていました。
仕事上での将来の夢はありますか?
2つあります。
1つ目はNYK SUPER ECO SHIP*のような、世界初となるコンセプトを多く盛り込んだ船を、ビジネス上・技術上両方で建造可能な形で作り上げること。
2つ目は技術力や知見の蓄積、あるいはビジネスとの繋がりなどを生かして、社内で新ビジネスを始めることです。
*NYK SUPER ECO SHIP:CO2を減らす未来のコンセプトシップ
どんな人がこの仕事に向いていると思いますか?
知識の吸収力があり、1を経験したり聞いたりして10を知れる人。物おじせずに多くの人と関わり協力関係を築いたり、時には厳しく交渉できる人。
技術面のみならず交渉力などのコミュニケーションの力も必要とされる業務です。
2018年12月に都内で取材
PROFILE:
35歳 入社11年目 神奈川県横須賀市出身
陸上職技術系 柿沼 徹也
日本郵船株式会社
取得資格:
1級小型船舶操縦免許
- 2006年
- 東京大学 工学部 機械工学科 卒業
- 2008年
- 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 修了
- 2008年
- 入社
- 2008年
- 技術グループ
- 2010年
- NYK LNGシップマネージメント株式会社 出向
- 2013年
- NYK SHIPMANAGEMENT PTE LTD (Singapore) 出向
- 2015年
- きらり技術力推進グループ
- 2017年
- 郵船エンジニアリング株式会社 出向
- 2018年
- 工務グループ