株式会社商船三井技術部の折戸悠太さん。
主に液化天然ガスを運ぶLNG船の新造船の完成までをプロジェクトマネジメントする仕事です。技術的な視点だけではなく、コストなどのビジネスからの視点も必要とされ、荷主、設計者、製造側とのコミュニケーションでも多くの知識を必要とする仕事です。
折戸さんがこの仕事についてから苦労したことや、やりがいを感じたプロジェクトのことなどお伺いしました。
(取材協力:株式会社 商船三井)
海運業界の場合「陸上職」と「海上職」という区分けがあります。「陸上職技術系」は陸から船の製造に関わる仕事です。新造船の計画・仕様策定・図面承認・建造監督などを行います。船主として安全性・輸送効率・操作性の高い船に仕上がるよう、顧客・造船所・メーカー・社内関係者等との協議を行います。
- 新造船のプロジェクトマネージャーとして、そして船主として大きな責任を持つ
- 技術の知識だけではなく、ビジネスセンスが必要とされる仕事
- 世界経済を肌で感じながら技術的な仕事ができる数少ない職種
現在の業務内容について教えてください。
海運会社の技術系社員として、新造船を調達する際の技術面でのプロジェクトマネージャーとしての役割を担っています。
具体的には、新造船の計画から仕様策定、図面承認、建造中の現場監督などを行っております。お客様である荷主さんの目線に立って安全かつ効率的に貨物を運べる船、また当社の乗組員にとってユーザーフレンドリーな船に仕上がるよう、顧客・造船所・メーカー・社内関係者などとたくさんの人と協議を行います。
現在は、新造LNG船*を担当する部署におり、北米シェールガス案件に投入予定のLNG船担当として、図面承認・技術的な打合せや既に建造が始まっている船の建中管理*を行っています。
*LNG船:液化天然ガスを運ぶための船
*建中管理:建造中の船の管理業務
仕事上で常に心がけていることはありますか?
船は多くの人と企業が協力して初めてできるものなので、国籍や立場を超えて関係者と良好なコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことを意識しています。
また、当社営業部やお客様と造船所の間の橋渡しをするようなポジションにいるので、お客様の要望や関係者の意見にしっかり耳を傾けて理解し、良いコミュニケーションをとるように心掛けています。
また、技術的な内容を説明する時は、相手に自分の言ったことが伝わっているかを意識しながら、誰にも伝わるわかりやすい説明ができるよう心掛けています。
プロジェクトを円滑に進めるための潤滑油のような存在だと思っています。
この仕事に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
私が大学4年生の時に、当社OBの方が客員教授として私の学科に所属されており、その方が懇親会の席で船・海のロマンを語られていたのを聞いたのが海運に興味を持ったきっかけでした。その後、担当教授が当社と共同研究していたこともあり、技術系としての仕事があることを知り、技術系でありながら世界規模でのダイナミックな働き方ができること、また基礎研究とは違ってプロジェクトマネジメントのような大局観をもった仕事ができる点に魅力を感じ、この仕事に就きたいと思うようになりました。
入社してから、仕事に対する印象が変わったことはありますか?
あまり理系っぽくないな、という感じはしました。もっと技術系の仕事をするのかなと思っていたのですが、想像していたよりも広い視野を持って取り組まないとならないことが多かったです。それがすごく面白いと感じられました。
仕事のやりがいはどんなところにありましたか?
一番のやりがいは、自分が担当していた船が無事に完成したという達成感だと思います。
船を建造する造船所で監督をしていた頃には、自分たちのチームが毎日検査をし船が無事に完成し、造船所から出る瞬間に現場で立ち会うことができ、他では味わうことのできない大きな達成感を味わえました。そしてものすごくホッとします(笑)。
完成後は運航している船を直接見る機会は少ないのですが、たまにニュースや新聞などのメディアで自分が建造に関わった船が取り上げられているのを目にすると、完成後の船の活躍を垣間見ることができ、こちらも小さな喜びであったりします。
仕事で大変だったことを教えてください。
前の部署で担当していたヤマル*砕氷LNG船の北極海での砕氷試験(アイストライアル)におけるプロジェクトマネジメントの業務が一番難しいと感じた仕事です。それまでは若手でサブの立場で仕事をすることが多かったのですが、この試験には船主である当社からの唯一の乗船者として立会いました。
見渡す限り氷で-30℃にもなる特殊な環境における、前例のない砕氷試験で、限られた時間で試験を終えられるか不安でした。
しかし、国籍・立場が異なる乗船者間で共通のゴール(=砕氷航行ができることを証明する)を共有し、乗船者間で積極的にコミュニケーションをとってお互いの意見をぶつけながら腹を割って話すことで、立場を超えてチームの意識が芽生え、全員で協力して無事に完成までに全試験項目を終了することができました。
*ヤマル ロシアのヤマル半島のこと。LNGを生産する基地がある。
1ヵ月ほど乗船しましたが北極海の氷の世界に包まれながら長い時間を過ごし、仕事とはいえ貴重な経験をしたように思いました。普通は行くことのできない海域ですし。オーロラも何度か見ましたよ(笑)!
仕事上での将来の夢を教えてください。
エネルギー産業や輸送業界に新しい変化をもたらせるようなプロジェクトに関わり、技術的なプロジェクトマネージャーとして、プロジェクトを成功に導きたいと考えています。
きっかけはヤマル砕氷LNG船のプロジェクトに関われたことで、革新的なプロジェクトに関われる面白さや社会的な影響度の大きさを感じることができました。
職務でのやりがい以外で、この職業に勤めてよかったと思うことは何ですか?
海運業は、世界中で起きているあらゆる出来事が何らかの形で自分たちの会社に影響を与えている職業です。そのため世界情勢にアンテナを張りながら仕事ができるのは、国際感覚が身について良いところかなと思います。
また、入社して6年半のうち2年は海外勤務を経験しましたが、文化の異なる国に住める機会が多いのも良いところだと思います。当社では技術系だと4人に1人は海外駐在しています。
仕事で英語はよく使いますか?
はい。使う機会が多いですが、私は学生時代に英語はあまり勉強していませんでしたので、就職してからかなり苦労しました。受験用の英語はやっていても、実際にコミュニケーションを取るレベルではなかったのです。
船に乗った時も船員の皆さんを始めとする多くの人達とのコミュニケーションは英語です。はじめは英語の会議での議事録も取れずに先輩に手伝っていただいたりもしました。
今は日々の仕事から学び、なんとかこなせるようになってきたところです。
学生時代の自分に会ったら、「もっと英語を学んだほうがいいよ。もっと海外に飛び出していったほうがいいよ。」と伝えたいです。
どんな人がこの職業に向いているかと思いますか?
全体の調和を取りながら、ここぞという時はリーダーシップを発揮できる人かなと思います。関係者間の橋渡し的なポジションとして、プロジェクトを進めなければいけない立場でもあるので、調和と自立のバランスが大切だと思います。
技術を突き詰めたい職人系の方でしたら、実際にものづくりを行うメーカーの方がいいと思うのですが、広い知識を学びながら、世界経済なども知り、幅広い大局観を持って働いてみたいと思う方には技術系のプロジェクトマネージャーがおすすめかなと思います。海外経験も自然と積むことができます。
2019年1月に都内で取材
PROFILE:
30歳 入社7年目 岐阜県出身
陸上職技術系 折戸 悠太
株式会社 商船三井
- 2006年
- 岐阜県立大垣北高等学校卒業
- 2010年
- 東京大学卒業
- 2012年
- 東京大学大学院・工学系研究科(修士課程)修了
- 2012年
- (株)商船三井技術部設計グループ 入社
- 2014年
- (株)MOLシップテック設計部 技師(メタノール船・コンテナ船・チップ船・自動車船の図面承認)
- 2016年
- (株)MOLシップテック 建造監督
- 2016年
- 短期海外研修(ロンドン&サウザンプトン)
- 2017年
- (株)MOLシップテック 建造監督
- 2018年
- ヤマルArc7砕氷LNG船のアイストライアル乗船(北極海)
- 2018年
- 商船三井技術部LNG船プロジェクトチームコーディネーター