北星海運株式会社で機関長を務める工藤 篤志さん。船のエンジン・ボイラーなど機械や装置の管理・メンテナンスを行う機関士を統括しています。
船員とのコミュニケーションを何よりも大切にしているのは、以前上司に言われた一言を守り続けているからとのこと。
その一言は一体何だったのでしょうか?
(取材協力:北星海運株式会社)
機関長は、船を動かすエンジンをはじめ、さまざまな機械、装置の運転管理などを行う「機関部」の責任者です。機関士のすべての業務が安全かつスムーズに行えるよう、機関から職場の環境にいたるまで気を配ります。
- 船内の機関士を総括する機関部分の責任者
- 人も機械も、些細な変化を感じとる習慣が大切
- 自らの様々な経験をもとに、後輩を育てていく
現在の業務内容について教えてください。
機関長は、船の管理や整備を行う機関士たちを統括する機関部分の責任者なので、普段は船長や航海士とブリッジにいることが多いです。
主にブリッジから機関室に待機している機関士に内線で指示を出して、日々の点検作業を行っています。機関士は船が動いている間は、動力となるエンジンの出力、船上で生活するために必要な電気を作る発電機の発電量、蒸気を発生させるボイラーなど、すべての機関がスムーズに動くようチェックしています。
機関長としてのやりがいはどんなところに感じますか?
全長約170mもの大きな船を機関士と守り続けるのですから、チームワークが大切になります。出入港は船長の指示のもと、船の操船もします。大きな船を操るわけですから、この部分はある意味で機関長の醍醐味かもしれません。
この仕事に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
もともと船に乗りたかったので、18歳で宮古海員学校へ進学し、航海士と機関士の資格を取得しました。航海士として船に乗りたいと思っていたのですが、当時航海士の求人がなく、船のエンジニアという選択肢を見つけたのがきっかけです。そのまま突き進み、いまは機関長として認めてもらえるまでになりました。
また、親兄弟が船乗りであったというのも船で仕事をしたいと思ったきっかけです。実は、この会社に入社したのも兄がこの会社で船長をしていたからというのが理由です。
いろいろな船に乗られると思いますが、船によって必要なメンテナンス技術は違うのですか?
船が大きくなれば機関部のエンジンも大きくなります。それぞれに癖のようなものはありますが、メーカーが同じ場合が多いのでメンテナンス作業自体は応用が利きます。船を造った造船所が同じだと、大体似たような設計になっていますので、機器の配置も一緒だと対応はしやすいです。
ただ、機関の操作に違いはあります。少し前の船は、電盤で制御していたのですが、電子制御エンジンが導入されてからは、タッチパネルで制御するようになりました。
仕事上で常に心がけていることはありますか?
船員のみんなは優秀なので、なるべく仕事を任せるようにしています。小さいことに気づけるということがありますので、わからないことだけ聞いてもらえればいいと思っています。
また、仕事をまかせることで、本人にも責任感が生まれ、ささいな違和感にも気づけるようになるからです。
そのためにも昔、上司から、「エンジニアの人間関係が良くないとエンジンがトラブルを起こす」と言われたのを心にとめて、人間関係を大切にしており、コミュニケーションや仕事を通じて後輩が育っていると感じた時にやりがいを感じます。
仕事で大変だったことはどんなことでしょうか?
機械というのはどんなに大切にメンテナンスをしていても、突然動かなくなることがあります。これまで様々なトラブルを乗り越えてきました。
なんとか修理を試みるのですが、それでも直らない時は、機械を製造するメーカーさんに頼ります。応急的に港まで船を動かし、港へメーカーさんに来てもらえるように手配したりするときもあります。
ある時メーカーさんにも前例のないようなトラブルが発生しました。どうにかこれまでの経験を生かして対応し、なんとか港まで辿り着いて交換しました。船の心臓部での仕事なので、トラブルがあると大変です。
休暇に関してはどうでしょうか?
3カ月の航海をして、1ヶ月の休暇をとります。私たち船員が休暇を取る時には、交代の船員を乗せた後に、地元の港で下船させてもらうことができます。
休暇中は子どもと遊んだり、家事の手伝いや掃除、料理もしていますよ。3カ月毎に家族に会うので、子供の成長は楽しみです。次に会った時は喋り出しているとか(笑)。今ですと上の子は小学生なので、どんどん身長が伸びています。
航海中に家族とはどのように連絡をとっていますか?
普段は船内から携帯電話で家族と話をしたりします。ただ、場所によっては電波がないので、陸に近づいた時を狙って連絡をしています。
仕事上で将来の夢はありますか?
これまでの自分の経験を基に、会社を背負っていく一等機関士・二等機関士の若い船員たちにアドバイスをして育てていければいいなと思っています。
2018年12月に都内の港で取材
機械はちょっとした事が故障につながります。些細な変化でも気づけるという習慣は、機関士を目指す上では大切です。
機関長になると大きな船の操船もしますし、やりがいも大きいですが、大きな船であっても繊細な変化を見逃さない洞察力を養い続けられるかがポイントです。
PROFILE:
38歳 入社7年目 山形県出身
機関長 工藤 篤志
北星海運株式会社
取得資格:
三級海技士(機関)
- 1999年
- 宮古海員学校卒業
- 1999年
- 豊野産業入社
- 2012年
- 北星海運入社(二等機関士)
- 2013年
- 一等機関士
- 2016年
- 機関長