株式会社商船三井で機関長を務める林伸久さん。
機関士として不具合の原因などを早く突き止めることで船の順調な運航を守ってきた結果、少しの異変にも気づくようになり、部下にも憧れられる存在になった林さん。幼少時から持ち続けた船への憧れや、機関士となり様々なトラブルに対応して身につけていった経験など、この仕事の魅力について伺いました。
(取材協力:株式会社 商船三井)
船にはエンジン・ボイラー・発電機など様々な機械や装置が搭載されています。
これらの管理・メンテナンスを行うのが「機関士」です。
「機関長」は、機関士たちを統括管理するリーダーとして働きます。
① 幼少時から船に憧れ続け、商船大学に進学して船会社へ就職
② 不具合への予兆を感知したり、原因を突き止める自身のスキルで結果が得られる
③ 将来は自らの機関士としての経験を若手に伝えていきたい
現在の業務内容について教えてください。
日本人の船員が乗船する船の人員配置、船員の人材育成を行っています。
機関長の配乗計画の立案や、若手の教育方針を策定することの他、退職手続き、陸上勤務要員(機関士)の交代計画立案などです。
仕事上で常に心がけていることはありますか?
高いモチベーションをもって仕事することが、仕事の効率もあがって本人にも会社にも有益となります。自分自身が海上勤務をしていた時のことを思い出しながら、気持ちよく働いてもらうため、可能な限り職員が納得のいく配置や交代を行えるように心がけています。
あと、個人的な心がけですが、残業はあまりしないようにしています。今の社会情勢から言ってもあまり残業するのはよくないですよね(笑)。
業務では英語を使うのでしょうか?
そうですね。この業界ではさまざまな職種において英語を使うことが多いです。今はできるようになりましたが、最初はかなり苦労しました。学生時代は全然勉強していなかったので…。でも業務をする上で必要だったので仕事をしながら身につけていったという感じです。特別な勉強はしていないです。
この仕事に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
幼稚園の頃、親子遠足で旧移民船のぶらじる丸を見学したんですけど、当時の自分にはものすごく大きい船に見えました。今見るとそれほど大きいとは思いませんが(笑)。
その時には「こんな大きな船があるんだ!」という驚きと、こんなに大きいものを動かしている巨大なエンジンにさわってみたいなあと漠然と思ったことがきっかけです。
そこから進路が決まったんですか?
はい。船が好きなのは変わらずでした。他にやりたい仕事も思いつかないほどでしたね。なので迷わず商船大学に進学しました。
憧れていた仕事に就職して、初めて船に乗ったときはどんな気持ちでしたか?
船はずっと好きで知り尽くしていたので新鮮な喜びというのではなくここにいて当然、くらいの気持ちでした(笑)。
就職する前もエンジンルームの見学をさせてもらったりしていたので、「わあっ!」というような感激は無かったです。
機関長時代、仕事のやりがいはどんなところにありましたか?
エンジンや機関に不具合が発生する前に異常の予兆を感知したり、修理や不具合の原因を早急に突き止めたりした時、自分自身のスキルで結果が得られるという実感があることです。
スキルが上がってくると、だんだん勘が良くなってくるんです。感覚がだんだん研ぎ澄まされていくのか、見たり触ったりすると「何か変だな」ということに気づく時があります。調べてみると故障する寸前だったりして、壊れる前に気づいて修理すれば船の運航にも影響は出ません。そんな時は非常にやりがいを感じますね。
仕事で大変だったことはどんなことでしょうか?
トラブルの原因が分からず、2日間不眠不休で作業した時はつらかったですね。
結果的に上司のアドバイスにより解決に至り、一人で乗り越えられないことも周りの助けがあれば乗り越えられると感じました。
会社の社風として各自のコミュニケーションが非常によく、話しやすい雰囲気があります。上司からもアドバイスはよくもらいましたし、自分もそうするようにしています。
休日はとれますか?
海上勤務の時は半年間乗船をして、3ヵ月休みとか、そんな事が多いです。長期の休みの時は子育てをしたりしましたよ(笑)。
現在は陸上勤務なので週休2日です。カレンダー通りの休みですね。その他有給もあります。休みの時は趣味の釣りやバイクでのツーリングを楽しんでいます。
海上勤務での楽しい思い出はありますか?
海上では周りに灯りがないので、星空は本当にきれいです。太陽が沈む瞬間に一瞬緑色に光るグリーンフラッシュも美しいですね。忘れられないです。
あと、船が港に入って時間があれば上陸できるのですが、地元の店に入って地元の船乗りとワイワイ話をしたり。すごく楽しかったですね。
仕事上で将来の夢はありますか?
現在は陸上勤務ですが、海上勤務が好きなのでまた海に戻り、少しでも多くの若手機関士の見本となる機関長になりたいです。
以前機関長として勤務していた時に、部下が機械をうまく修理できずに困っていたのですが、その時に「ここかな?」とピンときた部分があり、調べてみたら、そこが故障の原因になっていたということがありました。「なんでわかったんですか?」と部下が驚いていて、将来私のようになりたいと言われたのが嬉しかったです(笑)。
自分の培ってきた「経験」をたくさんの若手に伝えていければと思っています。
この職業の魅力はどんなところにあるでしょうか?
海が好き・船が好きというのはありますが、給与面は恵まれていると思います。そこはモチベーションに繋がるのではないでしょうか?
この職業を目指す方に必要なものは何だと思いますか?
挨拶、礼儀がしっかりしている人だと思います。船の上は狭い世界です。生活するにあたり、礼儀に欠ける人物はコミュニケーションにも支障をきたし、上司からの指導にも差がついてくるのではないでしょうか。上司も人間ですから。
基本的な挨拶はしっかりしてほしいですね。お互いに気持ちよく働きたいですよね。
2019年1月に都内で取材
PROFILE:
46歳 入社23年目 三重県出身
機関長 林 伸久
株式会社 商船三井
取得資格:
一級海技士(機関)
- 1996年
- 東京商船大学卒業
- 1996年
- 株式会社商船三井 入社(三等機関士)
- 2000年
- 二等機関士
- 2003年
- 一等機関士
- 2006年
- MOSM出向(監督)
- 2009年
- 一等機関士
- 2010年
- ドライバルク船スーパーバイジング室
マネージャー - 2014年
- MOLAO出向(シンガポール)
- 2017年
- 機関長
- 2017年
- 人事部人事第二グループ マネージャー
- 2018年
- 人事部配乗人事チーム チームリーダー