日本郵船株式会社で船長職を務める大石晋也さん。
積荷を確実に届けるための全責任を負う船長として船員の健康を守り、士気を高めるために顔を合わせてのコミュニケーションを大切にしている大石さん。
下船後も、船長職であることで、子供たちからの人気も高く、自然と人が集まってくるようです。
学生時代から現在、そして将来に至るまでの海の仕事に対する様々な想いも併せてお話しいただきました。
(取材協力:日本郵船株式会社)
船の大きさにかかわらず、船の最高責任者として船長が存在します。
船長は船の知識や操船技術だけではなく、船員をまとめるリーダーシップやコミュニケーション能力、そして安全を遵守するための判断力などあらゆる面で高い能力が問われる職種です。
- 原油タンカーの船長を務める。30 万トンもの原油を積載する船を指揮する
- 船員の健康に気を配り、コミュニケーションを取るのも船長の重要な仕事の一つ
- 船長は絶対に信頼される存在。船の航行を指揮し、航海のための必要な一切の権限をもつ
船長の業務内容について教えてください。
船長は、会社から任された船を安全に運航し、お客様の荷物を安全にスケジュール通りに運ぶ使命があります。
昨年まで原油タンカーの船長として日本~中東を行き来していました。航路は単純ですがその間には、船舶の集中するシンガポール海峡を通過し、海賊事件の報告があがる、マラッカ海峡、アラビア海を航行するなど、特に気を遣う海域もあります。
航海中は定期的に安全訓練、保安訓練を実施し、船員の安全意識を高め、万が一の場合に備えております。原油タンカーの航海で一番気にするのが喫水*です。積荷満載状態での喫水は20mを超え、シンガポール海峡は潮汐を利用して通過します。タイミングがあわなければ、座礁の危険もあり綿密な計画が必要です。偉そうなことを言っていますが、船は船長だけでは動きません。全乗組員のチームワークが必要ですので、日々の乗組員の士気をあげる努力は欠かせません。
また、原油タンカー(VLCC)は巨大な船で東京タワーの高さと同じくらいの長さがあり、30 万トンもの原油を積んだ状態になるため、他の船種よりも操船しにくいので、狭水道や船舶輻輳海域では特に気を遣います。でも船橋ではなるべくピリピリしないように気をつけていました。
*喫水:船舶が水上にある時に船体が沈む深さの事
仕事上で常に心がけていることはありますか?
安全運航はもちろんですが、とくに船員の健康に気を使っています。全乗組員を無事に待っている家族のもとに帰らすのも、船長の大事な使命です。作業中の怪我、乗船中の疾病、メンタルヘルスには、よく気を配っております。なるべく顔を合わせてコミュニケーションを取るようにします。
やりがいを感じるのはどんなときですか?
一つの航海が終わった時の達成感です。どの船種でも同じだと思いますが、お客様の荷物を安全にスケジュール通りに届けられた時に、「一仕事終わった!」と感じます。とくにタンカーは積荷も揚荷も本船荷役ですので、その達成感もひとしおです。
また、航海中の機器の故障対応も、実際に修理するのは船員です。陸上からのアドバイスを貰うこともありますが、自分たちの力で復旧できたときは、うれしいですね。
あとは、いわずもがな下船時の解放感。肩の荷がどさっと下りたような感じがします。その後の休暇に「何をしようか?」と考えると、思わず顔がにやけてしまいます。
大変だと感じることはどんなことですか?
荒天時は、船員一同、疲労がたまります。船長として、荒天は避けなければならないが、避けられない場合もあります。その場合は、被害を最小限にするため波浪にあわせて針路を変更し、気象・海象が回復するまで緊張が継続します。しかし、「止まない時化(しけ)は無い!」と、自身に言い聞かせ乗り越えてきました。
何歳頃から現在の職種に就きたいと感じましたか?きっかけや理由はどのようなものですか?
家族、親戚の身近なところに船乗りはいませんでしたが、高校1年生の時に志望大学を選んでいるなか、神戸商船大学のパンフレットの表紙に制服を着た学生の写真があり、率直に「かっこいい!」と思い入学しました。
大学に入ってからは、今度は外航船員になりたいと意力が湧き、目指すなら大手海運会社と決め勉学に励んだ結果、日本郵船に入社できました。やはり、船乗りになるからには、目標は船長としていました。
船長になるのは大変なのですか?
船長になった今も、継続して英語の勉強は続けています。英語力は必須です。港では英語での交渉も必要になります。会社の不利益にならないようにしっかりと交渉しないといけません。また、事故が起きてしまった場合も現地の検査官に対しての話し合いも英語です。
船長になる前となった後で印象は変わりましたか?
はい。船長になってみると、これだけ責任重大だとは思っていませんでした。さまざまな規則に対応しながら、船体や乗組員を管理することは大変です。
仕事上での将来の夢はありますか?
水先人です。三等航海士は水先人のエスコートをするのが仕事の一つです。私が三等航海士時代に清水港に入港した時、ここの水先人を船橋までエスコートしていると、「サードオフィサー(三等航海士)、お疲れ様。」と言っていただき、「うおー、かっこいいな~!」と感じたことから、目指すは水先人となりました(笑)。
もちろん、このことだけではありませんが、水先人の振る舞い、また操船テクニックを目の当たりにすると、なんと偉大な先輩方であると誰もが感じるでしょう。
お休みはどのように過ごしていますか?
最近の乗船期間は、長くても6ヵ月、次の船までの休暇は2~3ヵ月ほどあります。休暇中は家族旅行や友人とゴルフに行ったりしています。イベントが無いときは、子供たちの幼稚園の送り迎えをしてから一緒に遊んでいます。会えない時間が長い分、会える時にできるだけ一緒にいる時間を取ろうと思っています。休暇中は、時間が有り余るほどですので、自由に余暇の計画ができますね。長期海外旅行も簡単に計画できます。また、平日も休みであることから、一般的に土日祝に混雑しやすい場所にいってもガラガラと良いことづくしです。
起床は、前日のお酒の量次第ですかね(笑)日中は、ほとんど子供たちと遊んでいます。
就寝は、お酒を飲まない時は、子供たちと19:30には寝るようにしています。ちょっと早すぎますね(笑)。
仕事のやりがい以外で、海事産業に勤めていて良かったと思うことはどんなことですか?
海、船を職業としていることで、色々な人達から一目おかれている気がします。珍しい職業なのでしょう。そこで、船のお話をすると皆興味深く聞き入り、お酒の席も盛り上がり地元になじみの店ができました。
また、子供の通う幼稚園からも講演のオファーがあったり、子供たちにとっても憧れの存在なのかもしれません。
船員にとって、船長は絶対信頼される親分。目配り、気配りをするのが当然ですが、あくまで監督であり船内をマネージメントすべき立場であるのであまり細かいことを指示したりはしません。しかし、すべての責任は船長にあります。
どんな人がこの職業に向いているかと思いますか?
昔から、「船乗りは、スマートで目先が利いて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り。」と言い、まさにその通りと思いますが、船や海が好きな人は是非。
どんな職業もそうですが、好きでなければ続きません。好きであれば、どんな困難にあっても耐えられると思います。
2018年12月に都内で取材
海の蒼さ(あおさ)をご存知でしょうか?
海の広さをご存知でしょうか?
船が一度大洋にでればそこは蒼い大海原。
目指すは次の港。
気持ちが奮いあがるでしょう!
是非、海の仕事に興味を持っていただきたいです。
PROFILE:
44歳 入社21年目 静岡県出身
船長 大石 晋也
日本郵船株式会社
取得資格:
一級海技士(航海)、三級海技士(電子通信)、第三級海上無線通信士、船舶局無線従事者、主任衛生管理者、危険物取扱責任者、保安管理者適任証書
- 1997年
- 神戸商船大学航海学科卒業
- 1997年
- 日本郵船株式会社入社(三等航海士)
- 2005年
- 横浜支店大井事務所(初陸上勤務)
- 2007年
- 港湾グループ
- 2009年
- 海上勤務(一等航海士)
- 2011年
- NYK Shipmanagement東京事務所 出向
- 2013年
- タンカーグループ
- 2017年
- 海上勤務(船長)
- 2018年
- エネルギー業務グループ