大阪湾水先区水先人会で二級水先人として活躍する濵地義法さん。
船長の技術・知識・経験の足りない部分をサポートすることで、安全な運航をサポートし続けたいという。
憧れの水先人になったあとも常に学び続けるその仕事への想いを語っていただきました。
(取材協力:大阪湾水先区水先人会)
多数の船舶が行き交う港や海峡などを航行する際には船舶事故や悪天候などにより予定通りの出入港ができないなどの問題が伴います。そこで、その水域の事情や気象も知り尽くした「水先人(パイロット)」が船長を補佐します。基本的に水先区内では、船長に代わり水先人が直接、操船を行います。広く深い知識と経験を有するプロフェッショナルです。
- 操船の技術を活かした一生の仕事にできる
- 1ヶ月勤務の後1週間連休。他にも10日に1日の休暇・年間24日の年休もある
- 船長から頼られるやりがいのある仕事で責任も大きい
「水先人」とはどのような仕事なのですか?
船長をサポートする仕事です。大型船の船長には、さまざまな技術・知識・経験を持っておられる方々がいますが、世界中の港の状況を一人の船長が深く理解することはできません。
特に外航船の船長は港内操船の経験が少なく、多くの場合は水先人が操船して入出港を安全に導くというサービスが求められます。
水先人として常に心がけていることはありますか?
つい「かっこよく着岸させよう」とか「早く着岸させよう」と考えてしまうことがありますが、最重要なのは当然「安全」です。効率的な運航は、安全運航の土台がなければ実現されません。「船よりも自分自身のコントロールが難しい」という事を心がけ、安全最優先の水先業務を行なっています。
水先人が操船しない場合もあるのでしょうか?
旅客船やフェリーの船長は操船経験が豊富なため、我々水先人に求めるサービスが異なり、船長自ら離着岸操船をスマートにこなします。水先人が決して船長の代わりとなるのではなく、あくまで船長の技術・知識・経験の足りない部分をサポートすることです。
船の最高指揮者は船長であり、水先人はチームの一員です。「船頭多くして船山に登る」のことわざがありますが、特にトラブル発生時などはこれを忘れてはなりません。
水先人の仕事は、本船の安全かつ効率的な運航のために、全力で船長を「サポート」する事だと考えています。
濵地さんが水先人を目指すきっかけとなったことや理由はどのようなものですか?
鳥羽商船高専在学中、教官から水先人という職業がある事を教えられ、興味を持ちましたが、当時は水先人になるためのルートは限られていたので、自分がなれるのかは全くわかりませんでした。
しかし、北海道航路のフェリー会社に就職して十数年経った頃、新制度が始まったことで自分にも将来、水先人になれるチャンスが訪れました*。その時点では離着岸操船の経験はなかったので、この仕事がどれほど難しいのか、または楽しい仕事なのかわかりませんでした。
その後、船長業務を務めて自身で操船する楽しさ・恐怖感・エキサイティングさを知り、この操船の技術を一生の仕事にしたいと決めました。ちょうどそのタイミングで新規2級水先人の募集が開始されたのでほとんど情報もないまま1期生としてこの世界に飛び込みました。
*2007年4月より水先人になる資格要件が緩和されて、船長経験のない人も水先人になれるようになった。
「水先人」の仕事における「やりがい」はどんなところだと感じますか?
風が強かったり、多くの漁船が出漁して船長が不安を感じている時の水先業務は、特にやりがいを感じます。
逆に、海上が平穏で他船もほとんどいない日の業務は、何だか申し訳ない気持ちになったりします。やはり条件が厳しい時ほど、船長に頼られているのが伝わってきます。無事に仕事を終え、笑顔の船長から「Good Job!」の言葉をいただいた時など大きな達成感を得られます。
やりがいとは逆に「辛い」と感じられたことはありますか?
全ての水先人が同じ考え方やスタイルで業務を行なっている訳ではなく、答えがない事も多いです。特に修業生*の期間は、答えが解らず、戸惑い、理不尽だと感じることさえあります。
その中で自分なりのやり方を見つけていかねばならないのが難しく、辛いです。しかし多くの先輩方にご教示いただいたおかげで、自分の「引き出し」が増えていきました。厳しい言い方ですが水先人という仕事は、できない人は辞めなければ、社会に重大な損失を与えます。その責任の大きさを実感して覚悟を決めれば乗り越えられると思います。
*水先人の資格を取得する前の6ヵ月前、修業生として学ぶ機会がある
休日はとれますか?
1ヵ月勤務し1週間の連休、さらに10日に1日の休暇と、年間24日の休みが取れます。休暇時には、三重県の自宅に帰って、子供達と遊んだり、キャンプや登山に出掛ける事が多いです。最近は、吹奏楽部の長女に影響を受け、アルトサックスも始めました。
どのような「水先人」を目指していますか?
難しい質問です。仕事上では夢であった船長も水先人も経験させていただいてます。
今後は無事故で水先人をリタイアできるように粛々と業務をこなしていくだけではなく、将来に向けて、将来は水先人全体のシステム・品質管理・考え方・最新技術の活用など改善すべきところは改善し、船会社や社会経済に貢献できればと思います。
濵地さんにとって「水先人」とは?
趣味であり、楽しみであり、仕事であり、私が社会貢献できる一つの手段だと思います。
海事業界で勤めてよかったと思うことは
何ですか?
海事業界はある意味とても狭い世界で、同級生や同僚・先輩後輩など多くの海事関係者と繋がっていきます。プライベートでもさまざまな海事関係の方々と楽しくお付き合いさせていただいています。
「水先人」に向いている人はどんな人ですか?
日常的にドキドキハラハラする仕事なので、この様なスリルを楽しめる人です。すぐに感情的になる人ではなく、器の広い穏和な性格の人が向いていると思います。
2018年11月に都内で取材
海事業界に限らず、社会は目まぐるしく変化しており、まさに激流の時代です。
チャンスは、いつ来るかわりません。ただ、しっかりと準備をしていなければ、せっかくのチャンスを掴めません。
今、できる事を全力で!
PROFILE:
47歳 入会4年目 三重県出身
二級水先人 濵地 義法
大阪湾水先区水先人会
取得資格:
一級海技士、気象予報士、大阪湾水先区二級水先人、海事代理士
- 1992年
- 鳥羽商船高専航海科卒業
- 1992年
- 新日本海フェリー株式会社入社
- 2000年
- 日本クルーズ客船出向
- 2008年
- 鳥羽商船高専出向(助教)
- 2014年
- 新日本海フェリー株式会社退職
- 2014年
- 海技大学校水先コース(2級)入学
- 2015年
- 大阪湾水先区水先人会 入会