東京湾水先区水先人会で二級水先人として活躍する西川明那さん。現在、東京湾に所属されている女性水先人は、西川さんを含め4人です。
東京湾には世界中から船が集まってきます。船は船長の指揮で航行するものですが、船長も世界中の港や海流など港湾事情まで理解している訳ではありません。そのため、船が安全に入出港できるよう水先人がサポートします。
日々の仕事内容や、将来の目標について詳しくお伺いしました。
(取材協力:東京湾水先区水先人会)
多数の船舶が行き交う港や海峡などを航行する際には船舶事故や悪天候などにより予定通りの出入港ができないなどの問題が伴います。そこで、その水域の事情や気象も知り尽くした「水先人(パイロット)」が船長を補佐します。広く深い知識と経験を有するプロフェッショナルです。
- 担当水域の入出港において船長のアドバイザーとして乗船
- 航海士志望から水先人に進路変更した理由
- Excellentを超える『Beautiful』な操船を目指し日々勉強中!
西川さんは「水先人」としてどのような仕事をしていますか?
東京湾内を航行する船の嚮導*(きょうどう)作業を行います。大まかに分けて業務内容は、「ベイ業務」と「ハーバー業務」の2つに分けることができます。
ベイ業務は、航行作業のことで、東京湾内を航行する船を目的地まで導くことです。法律を守り、浅瀬や危険な海域など把握した上で、安全で効率的に船を目的地へと運航します。乗船する船のほとんどが外国の船なので、船長と陸上の関係先(東京湾海上交通センターなど)との通訳の役割もします。
もう1つのハーバー業務は、港内作業のことで、バース(桟橋や岸壁)への離着岸作業を行います。乗船する船は大型船が多いため、タグボートの補助を受け、船体や桟橋・岸壁側に損害を与えないように、安全に離着岸作業を行います。港内の交通の流れを乱さないために、安全だけではなく効率的な操船も求められています。
*嚮導:船を導くこと
水先人として常に心がけていることはありますか?
担当した船の船長に満足していただけるような操船をするよう心掛けています。
水先人は、船長の要請によって乗船するアドバイザーです。たとえ自分が安全だと思っていても、船長が不安を感じているようであれば、速度を落としたり航行ルートを変更するなどして、船長が不安を感じないような操船をするようにしています。
西川さんが水先人を目指すきっかけとなったことや理由はどのようなものだったのでしょうか?
水先人は元々、大型船の船長経験者しかなることができない仕事でした。
ですが、私が大学3年生の時に制度が変わり、船長経験のない人でも水先人になれる道が開かれました*。当時の私は航海士を目指していたのですが、この新しい制度ができたことと、練習船で見た水先人の姿に興味を惹かれ、水先人を志しました。
*2007年4月より水先人になる資格要件が緩和されて、船長経験のない人も水先人になれるようになった。
「水先人」の仕事における「やりがい」はどんなところだと感じますか?
日常生活ではあまり接することのない巨大な乗り物を自分の意志で動かすことができることです。
また毎回、違う船に乗るため、その船ごとの特色を掴み操船することに面白さを感じています。乗船する船はほとんどが外国船のため、さまざまな国の方々と接することができるのも魅力のひとつかと思います。
業務を終え、下船する時に船長から「Thank you, Pilot. Good job. See you next time.(ありがとう!また頼むよ!)」と言ってもらえた時には、船長に満足してもらえる操船ができたのだろうと、ホッとするとともに、達成感を感じます。
逆に大変だと感じるところはありますか?
毎回違う船に乗るため、その船ごとの特色を乗船してすぐに掴まなければならないところに難しさを感じます。また、強風が吹いたり、本船が故障したりする場合もあるので、その都度、臨機応変な対応を迫られます。
水先人の仕事は、とにかく経験を積むことが大切です。仕事を始めたばかりの頃はまだ余裕がなく、たくさん失敗もしました。
しかし経験が増えれば増えるほど、先のことを予測して、余裕を持った操船をすることができるようになってきました。まだまだ未熟ですが、少しずつ経験を積み重ねていくことで、小さな変化を感じ取って、早めの対応を取れるようになってきているように思います。
休日はとれますか?
2日勤務、1日休み、3日勤務、2日休みのシフト制です。また、定期的に1週間程度のまとまった長期休暇があります。
通常の休日は、家でお茶を入れて読書をしたりゆっくり過ごしています。長期休暇の時には、旅行へ行くことが多いです。
「水先人」としての将来の夢は何でしょうか?
まずは一級水先人になることです。水先人はそれぞれの担当水域のスペシャリストであるべきなので、まずは一級水先人となり、全ての制限がなくなった上で、より深く東京湾について知っていきたいと思っています。*
*二級水先人だと総トン数5万トン(危険物船は2万トン)以下の船しか嚮導することができない。
もちろん、知識だけではなく操船技術も向上させていきたいと思っています。
尊敬する大先輩から「水先人が船長から貰う最高の褒め言葉はExcellentではない。その上にはBeautifulがある。」と教えていただきました。いつかは私も「Beautiful job!」と言っていただけるような操船ができるよう、日々精進していきたいです。
西川さんにとって「水先人」とは?
担当水先区のスペシャリストだと思っています。
先輩水先人から、「水先人は、無冠の外交官である。日本に来た外国人船員が初めて会う日本人なのだから、失礼の無いようにしないといけない。」と教わったことを心に留めています。
どんな人がこの仕事に向いていると思いますか?
自分をコントロールすることができる人ではないでしょうか。
嚮導中には、予想外の出来事が多く起こります。その時に、焦ったり感情的になってしまったりするのは、仕方ないかと思いますが、パニックにならないように自分を落ち着かせる必要があります。
2018年11月に都内で取材
この業界には、専門的な知識や経験を必要とする
職業が多くあるかと思います。
最初、慣れるまでは色々と戸惑うこともあるかとは
思いますが、ひとつの道を極めるというのは、
とても魅力的で面白いことだと、私は思っています。
ぜひ、自分が進んでみたいと思える道を、
見つけていただけたらと思います!
PROFILE:
33歳 入会8年目 京都府出身
二級水先人 西川 明那
東京湾水先区水先人会
取得資格:
三級海技士・東京湾水先区二級水先人
- 2008年
- 東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科卒業
- 2010年
- 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科 海運ロジスティクス専攻 卒業
- 2011年
- 水先人養成コース 修了
- 2011年
- 東京湾水先区水先人会 入会