内海水先区水先人会一級水先人の高濱洋嘉さん。
水先人は3つの等級に分けられておりますが、高濱さんは最上級にあたる一級水先人の資格を所有しています。一級になると水先業務を行える船舶の大きさに制限がなくなり、超大型客船などの安全な出入港にあたって船を導く重要な役割を担っています。
40年以上海の仕事を続けている高濱さんがたどり着いたプロフェッショナル『水先人』の仕事の魅力についてお伺いしました。
(取材協力:内海水先区水先人会)
多数の船舶が行き交う港や海峡などを航行する際には船舶事故や悪天候などにより予定通りの出入港ができないなどの問題が伴います。そこで、その水域の事情や気象も知り尽くした「水先人(パイロット)」が船長を補佐します。広く深い知識と経験を有するプロフェッショナルです。
- 港への出入港で、船長や船員をサポート! 会話は英語、国際的な職場環境
- 船長時代に支えてもらった水先人の仕事に憧れを抱くようになった
- 定年までが長く、経験を生かし長く働ける職業
高濱さんは「水先人」としてどのような仕事をしていますか?
内海水先区の水先人は、瀬戸内海に出入航する大型船をいかに安全にかつ効率的に嚮導*(きょうどう)するのかが仕事です。
そのためには事前の準備を行い、乗船してからは船長のアドバイザーとして乗組員と協力しながら目的地まで船を案内します。
*嚮導:船を導くこと
水先人として常に心がけていることはありますか?
いかに船長に満足してもらえるか。船長に「この水先人(パイロット)だったら大丈夫」と思ってもらえるよう心がけています。
それには入念な準備と船長と乗組員への的確な情報提供が必要だと思っています。
船長とは英語で会話するのでしょうか?
水先人も含め、外国船の船長が使う言語は基本的には英語です。
もちろん日本人同士のコミュニケーションは日本語です。
英語は必須でしょうか?
水先人の国家資格を取得する条件の中に英語の試験もあります。
最近は選考の時にTOEICでハイスコアを有している人も多いようです。
高濱さんが水先人を目指すきっかけとなったことや理由はどのようなものですか?
船に乗りたいと思ったのは中学生頃からです。
航海士を経験した後、船長になり 4、5 年が経った頃、世界の港で大型船を操るパイロットの姿に憧れを抱いたことと、船長より更にステップアップしたいと思ったことがきっかけで、水先人を目指しました。
「水先人」の仕事の喜びはどんなところにあるでしょうか?
船を誘導している間は漁船を避けたり、横切る船や接近してくる大型船をかわしたりと緊張の連続です。しかし、タグボート(大きな船を港へ出入りさせるために使う小さい船)の力を借りながら300メートルを超える船を操り、岸壁に平行にして着岸し、無事に作業が終わり船長に満足して貰った時が、この仕事のやりがいを実感する瞬間です。
逆に大変だと感じるところはありますか?
同じ大きさの船でもその特徴はそれぞれ異なります。この前はこの方法で上手くいったからといって、それがすべてに応用できるものではありません。
また、同様に気象や海象も異なるので、同じ方法が通用しない場合があり、難しいです。
しかし7・8年の経験を積んでくることで対応力がついてきたように感じます。経験が努力を促し、対応力を増進させてくれると思います。
休日はとれますか?
24日勤務で6日の休暇、他に14日の年次休暇があります。
24日の勤務の間も船の状況により、待機日(4〜5日)があります。
仲間とゴルフに行くのが楽しみで、健康維持にもつながっているようです。また、休暇が連続なので妻と旅行に行けるのも楽しみです。
水先人という職業の良いところを他にも教えてください。
水先人になって良かった事はいろいろとあります。
まず、サラリーマンと異なり長く働くことができるという点です。私の所属する内海水先区水先人会の場合、健康であれば75才の誕生日前まで働くことができます。
また、個人事業主なので、水先人同士には上司や部下の関係はありません。もちろん先輩後輩の礼節は当然ではありますが、人間関係が複雑でない点も良い点の一つだと思います。
そして、誘導する船の船長・乗組員は90パーセント以上外国人なので国際的な交流ができるところも気に入っている点でしょうか。
どんな人が水先人に向いていると思いますか?
判断が早い人。慎重かつ大胆な人が向いていると思います。
逆に集団で仕事するのが苦手な人や、他人に気を使いすぎる人も、水先人に向いているのではないでしょうか?まあ船の船員のほとんどは外国人なので、あまり気を使わなくても大丈夫です(笑)。
高濱さんにとって「水先人」とは何でしょうか?
大型船を操るという技術屋のプロの集団であり、物資輸送に欠かせない職業であり、日本経済を影で支えている存在といえると思います。
さらに外国の乗組員にとっては最初に接する日本人が水先人となります。それゆえ先輩からは「無冠の外交官の誇りで仕事をするのだ」と教えられてきました。
2018年2月に都内で取材
以前は大手船社で外航船の船長を経験した人しか水先人になることはできませんでした。
しかし、制度が変わったことで、海事学校を卒業して直ぐに水先人になれるようになり、若いうちからチャンスが広がっています。
水先人は国家資格による技術を持った職業として、また、職場である大型船では外国人乗組員と一緒に仕事し交流できるという国際的な職業でもあり、日本経済や、社会に大いに貢献できる魅力ある職業です。
PROFILE:
67歳 入会15年目 熊本県出身
一級水先人 高濱 洋嘉
内海水先区水先人会
取得資格:
無線従事者免許証、一級海技士(航海)、内海水先区一級水先人
- 1973年
- 大島商船高等専門学校卒
- 1974年
- 澤山汽船(株)*入社、三等航海士
- 1995年
- 船長拝命
- 2004年
- 国際エネルギー輸送(株)*退職
- 2005年
- 内海水先人会入会
- 2017年
- 内海水先区水先人会 副会長(経理養成担当)に選任
- *社名変更 澤山汽船(株)⇒国際エネルギー輸送(株)⇒現 商船三井オーシャンエキスパート(株)