海事代理士を開業して35年の三池治行さん。
外国籍船を日本籍船に変更する手続きや、プレジャーボート関連など、さまざまな業務を行っています。ここ数年は、2年以上かかる大型プロジェクトに関わる機会が多く、すべてが無事終わったという達成感は何物にも代えられないと語ります。海事代理士という一般的に知られていない士業への熱い想いを語っていただきました。
(取材協力:三池海事事務所)
陸上と同様に海上にも法律が存在します。海上を行き交う船も新造したときや持ち主が変わった時など様々な場面で所定の手続きが必要ですが、船にまつわる法律は非常に複雑なものになっているため海事代理士が代行して行うことが多くあり、 「海の法律家」とも呼ばれる専門性の高い仕事です。
- 海事代理士は船にまつわる複雑な手続きを代行する仕事
- 船舶は大きな資産価値を持つため、登記手続きのミスは絶対に許されない
- 依頼された仕事に対しての丁寧さ・誠実さが長く仕事を続けるコツ
「海事代理士」の業務内容について教えてください。
海事代理士は、船舶を所有している方などから依頼を受け、行政機関に対して、さまざまな申請・届出などの手続きや書類作成を行うことのできる、唯一の国家資格者です。
船舶の登記については、弁護士、司法書士も行えます。しかし、その後の船舶国籍証書取得や船舶検査などは、船舶所有者または海事代理士のみが行うことのできる業務とされています。
依頼者である個人または企業と行政機関との橋渡し役として、業務を全体的に見渡し、依頼者には的確なアドバイスを行い正確な事務手続きを行うことによって、業務をスムーズに進行させる役目を果たしています。
船の書類は日本語以外にもあるのですか?
外国で作った船の場合は書類はすべて英語などの外国語になります。そのため専門的な知識がないと手続きをするのは大変です。
私の事務所で扱う書類も、アラビア語やトルコ語など様々です。全く分からなければ、翻訳会社に発注することもあります。大切なことは正確な情報ですので、曖昧なまま手続きを進めることだけは避けなければなりません。
仕事上で常に心がけていることはありますか?
法律関係者によくあることですが、自分たちだけルールを分かっていて相手への説明を端折ったりしてしまうことがあります。聞いている方はきっとわからないと思いますので、初めて聞く方でもわかるように気を配るようにしています。
また、業務の対象となる船舶は、常にタイトなスケジュールで運航しています。手続きのミスや事務処理の遅れによる運航の差し止めは絶対に避けなければなりません。そのためには、依頼された業務に関わるすべての人たちに細心の注意を払いつつ、迅速かつ誠実に対応し、こまめに連絡を取るように心がけています。
船舶はたいへん大きな価値をもつ資産ですので、所有権や抵当権などの登記手続きに関しては、一点のミスも許されません。
自分一人でチェックするのではなく誰かに見てもらうのは大切だと思います。主観的になりすぎないというのがミスを防ぐコツでしょうか。
海事代理士になったきっかけは何だったのでしょうか?
サラリーマン生活2年目の頃、当時の仕事のやりがいや将来について、自分の中で行き詰まりを感じていました。何をしたいのか、どんな将来を望むのか、じっくりと自分を見つめ直す中で、親の生き方や仕事について考えたことがきっかけでした。
私の父は、事務所を持って海事代理士一筋でやって来た人でした。職業人としてあらためて父を見たとき、自分を信じて道を切り開いてきたたくましさを感じて、父の職業である海事代理士という仕事に興味を持ちました。
この仕事の魅力はどんなところでしょうか?
海事代理士は、弁護士や司法書士など、他の「士業」と呼ばれる国家資格者と比較すると人数的に少なく、マイナーなイメージであることは否めないですが、四方を海に囲まれた「日本」である以上、この仕事が無くなることはあり得ません。
仕事量の地域格差はあるにしても、我々の存在を望んでいる顧客は沢山いらっしゃいます。海や船に関係する人々と出会い、そこで伺うお話も魅力にあふれています。
どんなところにやりがいを感じますか?
難しい案件を処理した後に、依頼者から感謝とねぎらいの言葉を頂いた時です。
ここ数年は、依頼から業務終了まで2年以上かかる大型プロジェクトに関わる機会が多く、長く続いた緊張の果て、すべてが無事終わったという達成感は何物にも代えられません。
海に関わる方は豪快で、おおらかな考えを持つ方が多く、自分なら落ち込んでしまうことも、あくまでも前向きです。現在も、同じプロジェクトで尊敬してやまない方と仕事させてもらっていますが、経験も豊富で重要な存在でありながら偉ぶることもなく、爽やかに仕事をこなす姿に多くを学んでいます。
逆に大変だと感じられたことはありますか?
世界の条約が改正されるたびに日本の法令も改正あるいは制定されることになります。そのため、法改正の情報には常にアンテナを張っておく必要があります。
しかし、すべてを網羅できるわけもなく、気が付かないうちに変わっていることもあります。依頼された業務について、関係法令や行政の取扱いは変わっていないか、その都度徹底的な調査と研究を行うより他に方法はないのですが、これが苦労と言えば一苦労です。法改正に関しては船会社などのお客様から聞く場合もありますが、同業者のネットワークの中から知ることも多いです。人数が少ないからこそ、海事代理士は他に比べて横のつながりが強い士業かもしれません。
海事代理士として今後どんな夢を持っていますか?
海洋レジャー産業のさらなる発展を望んでいます。
昨今、総トン数20トン以上、長さ24m未満の大型プレジャーボートが数多く輸入されるようになりました。所有者の中には、遊休時のボートを有効活用したいと考える方もいます。
法の改正も含め、関係各所に働きかけ、一般の方たちが海や船に接する機会が増えれば、船舶取扱いディーラー、マリーナ、ボートヤード関係者など海事産業の活性化につながるはずです。
休日はありますか?
基本的に土日祝日は休みです。
しかし、船舶の運航状況などにより、電話対応することはしばしばあります。休息という意味では、ライヴを観に行くのが好きです。若い頃から聴き続けているミュージシャンですから、お互いに年を取っています。あと何度ライヴで会えるかと思いながらも、人生の喜びをかみしめています。
三池さんが考える「海事代理士」とは?
海事代理士より先に行政書士の資格を取得しましたが、これまでも業務量としては海事代理士業務が約98パーセントを占めています。そういう意味でも、海事代理士は私のライフワークです。
どんな人がこの仕事に向いていると思いますか?
誠実で、明るくまめな人です。どんな仕事にも言えることですが、依頼された業務を誠実にこなしていくことが、次の仕事にもつながります。
また、海事代理士は書類作成など机で仕事をするイメージが強いかもしれませんが、私の場合は人に会うことも多く、あちこち飛び回っています。出会いを楽しみ、フットワークの軽い人が望まれると思います。
2018年12月に都内及び神奈川で取材
PROFILE:
60歳 開業35年 東京都出身
海事代理士 三池 治行
三池海事事務所
取得資格:
行政書士・海事代理士
- 1980年
- 明治大学卒業
- 1980年
- 民間企業に就職
- 1982年
- 三池海事事務所入所
- 2003年
- 現:三池海事事務所開業